The Essay

カフェデビュー

珈琲は大好きを通り越して口にしない日はないというくらい日常の一部。カフェや喫茶店で珈琲とケーキを嗜んでいる時間がいちばん幸せ。そんな僕が一人カフェで珈琲を飲む習慣が生まれたのが高校1年生の冬だった。ほろ苦なカフェデビューを今でもくっきりと覚えている。

テスト勉強がしたい。けれどもなぜか自宅で集中して勉強ができない。そんな時は図書館に行くのだけれど、図書館は早い時間に閉館してしまうのが悩みどころ。夕方以降の時間帯で勉強に集中できる場所探しに困っていた。

ある日、クラスメイトがこともなげに「カフェで勉強すればいいじゃん」と言う。

カフェ??

カフェに行ったことは1回だけ。当時の恋人とデートの時に立ち寄ったスターバックス。慣れた調子でカウンターで彼女が「なんとかフラペチーノをトールで」って呪文みたいに言ものだから慌てて僕も「僕もそれがいい」と乗り切った。2人分で会計が1,000円を超えててすごいびっくりした。バイトを始めたばかりの時給750円の高校1年生には「カフェってこんなに高額なんだ・・・」という世界だった。そんな未知すぎる空間でひとりで勉強なんて無理無理無理・・・。みたいな話をしたら「ベローチェとか安くて使いやすいよ。勉強してる学生も結構いるから」と返してくる。

ベローチェは僕の地元・津田沼にもあった。パルコやOIOIがあるオシャレタウン北口の新津田沼駅前。イトーヨーカドーが目の前にあって、独特なエンジ色の外装が強く印象に残っていて、マダムたち御用達の格式高いカフェだと思っていた。

ベローチェのエンジ色の外装を描いたイラスト
当時のベローチェ新津田沼店の外観の雰囲気

重たい扉を開けて店内に入ると、カウンターには白シャツにエプロンで統一されたおしゃれな店員さんが4〜5人くらい並んでいてその光景に圧倒される。列に並んで待っていると美味しそうなパンとサンドイッチが目に入り、値札を見るとなるほど本当に安い。しかしそれでも不安で不安で仕方ない。メニューを早く見たい。後ろに並んでいる人の視線が気になってしまってカウンターでゆっくりメニューを吟味できる胆力もない。

自分の番になってメニューに目をやると一部写真は添えられているものの、カフェラテだのカフェモカだのがそれぞれどんな味なのかさっぱりわからない。メニューの後半に進むほど値段が高くなっていくので、なんかいいやつなんだろうという認識。

ベローチェの魅力は当時から際立つフードとドリンクの安さ。あの頃から比べたら値上げはされているけど、現在だって十分リーズナブル。たしか当時、一番高いメニューでも300円いかなかったんじゃないかなあ。とはいえこちらはコンビニバイトを始めたばかりの高校生1年生。今後も足繁く通うことを考えると1回あたりのカフェ代は安く抑えたいところ。メニューの中で一番安かったエスプレッソというやつをオーダーした。エスプレッソがどんなものなのかも大して知らずに。たしか150円くらい。

「お待たせしました!エスプレッソになります〜」

声がかかってカウンターから差し出されたエスプレッソは、手のひらに乗るくらいのちんまりとした、見たこともないサイズのカップ&ソーサーに、お気持ち程度のコーヒーが注がれていた。

それを見た僕は咄嗟に「しまったお子様メニューを頼んでしまったんだ・・・!!」と思い込み、ものすごい恥ずかしい気持ちになって、居た堪れずにそそくさとミニチュアカップを手にしてテーブル席へと移動した。カウンター越しの店員さんがくすくす笑っているように見えた。ただのホスピタリティからくるスマイルだっただろうに。

「安さに目が眩んで選択を誤ってしまった・・・」なんて思いながらお気持ちコーヒーをぐいっと口にした高校生は二度驚くのだった。

「苦」

白い小さなカップに入ったエスプレッソのイラスト
エスプレッソ(本当にちっちゃい)

これが僕のエスプレッソとの出会いであり、カフェソロデビューだった。

それから

テスト前や受験前になると学校から真っ直ぐ新津田沼駅のベローチェまで向かい、閉店まで勉強するという日々を過ごした。高校生はカフェラテとカフェモカの違いもわかるようにもなった。いつも店内で流れていたジャズ・ボサノバBGMが『Cafe Apres-midi』シリーズであることを知り、近所のCDレンタルショップでアルバムを片っ端から借りて、カフェミュージックにハマったのもベローチェのおかげ。これはやがて大学生活で大いに僕を助けてくれることになる。

ベローチェは、背伸びをした知ったかぶりの子どもの僕を地に足がついた大人にしてくれた大切な場所。あの頃過ごした大切な時間の残り香を感じたくて、出掛けた先にベローチェがあるとつい立ち寄ってしまう。鹿児島にベローチェがないのが寂しいが、ノスタルジーを味わうにはこれくらいの距離があったほうが却ってよいのかもしれない。

新津田沼駅のベローチェはあれからゆうに20年は経っているのに、いまだに当時とほとんど変わらぬ佇まいで営業を続けてくれている。そろそろまた行かなくちゃ。

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